171センチ90キロ、風俗嬢始めます(7)

ストーリー・コラム

前回の(6)では、

【170センチ越え・90キロで、

ダサくてブサイクで地味でデブな中年の、

とうの昔に女として見られなくなったオバさんが、

貧乏脱出のために熟女風俗嬢になり、

数か月で老いも若きも関係なく、男性をトリコにする人気嬢に変身し、

とある人物と運命の出会いを果たし、使命に気づく】

という、

トンデモストーリー、

風俗の仕事をはじめ、想定内の【不人気嬢】として、全然稼げなかったわたしが、

初めての満員御礼になり、

人気嬢となったために、いろんな目に遭うところまでお話ししました。

今回は、人気嬢となったわたしに襲ってきた、ショッキングな出来事をお話しします。


<前回のあらすじ>

熟女風俗嬢として、ナンバー入りを果たした私は、

親の介護施設利用料を支払うため、

平日は会社員、休日は風俗嬢として、忙しい日々を送っていました。

しかし、わたしが接客中、養母が突然他界。

わたしが風俗嬢で働く理由がなくなったと思ったのもつかの間、

ずいぶん前に亡くなっていた養父の借金が発覚。

返済のため、結局風俗を続けることになりました。


171センチ90キロ、風俗嬢始めます(7)

働く理由

復帰してからも、わたしのシフトは空きが出ることはありませんでした。

わたしのお店では、会員になったお客様は「一週間前の午前9時半から」電話予約を受け付けていました。

(非会員様は、3日前から)

わたしのシフトが「土曜日の10時~18時」だとすると、

その日の予約は「日曜日午前9時半」に受付開始となります。

自慢げに聞こえてしまうかもしれませんが、

わたしがシフトを入れたら、受付開始日には、電話番のスタッフさんが1人多くおかれました。

電話がすぐにつながらないと、クレームになるからです。

そして、お店に個人情報を知られたくない、会員になって、たくさんメールが来るのがイヤ、とおっしゃっていた非会員のお客様も、

「非会員のままだと、一生予約とれないから」と、会員になる・・・と言ったこともたくさんありました。

受付開始日には電話はつながりにくくなり、

15分以内に、「満員・キャンセル待ち」の表示となりました。

復帰してから数か月で、残っていた支払いも、借金もすべて完済、

わたしには、風俗で働く理由がなくなりました。

理由がなくなったので、こんなに遠いところまで来る必要は、もうない。

でも、なぜか「すぐに辞めます!」とは言えませんでした。

なぜなら、スタッフさんの期待を、裏切ることができなかったからです。

わたしが仕事上がりの時には、スタッフさんは丁寧に私をねぎらいました。

「お客さま方が寂しがるので、短い時間でも、月に1回でもいいので、シフト入れてくれるとうれしいです」

「みなさん、『次はいつ来る?』『本指名料倍以上払うから、確実に予約できるようにして』っておっしゃるんですよ」

「もう、県内だけじゃなく、全然違う地方からも問い合わせがあって・・・」

・・・

そんなふうに言われると、はっきりとした「辞めたい理由」がない限り、辞めることができないな・・・

と、わたしは思ってしまって、結局ズルズルと、シフトを入れ続けていました。

お店は、よほどのことがない限り、キャストが退店することを喜びません。

とくに、すこしでもお客様が取れる・予約が入る・本指名が返せるキャストは、

手放したくありません。

月1のシフトでもいいから!とお願いされます。

最初で最後の欠勤

そして、わたしは出勤日を減らしながらも、ズルズルと週1のシフトを入れ続けます。

もうやめてもいい、と思ってから、すでに半年が経過していました。

お金がないことが、とてつもなくつらくて惨めだということを知っている私です。

これと言って、何かを買いたいとか、ぜいたくをしたいとかは考えていませんでしたが、

「行けば、お金になる」

という魅力には、叶いませんでした。

そして、冬・・・12月の初めにシフトを入れ、

いつものようにあっというまに満員御礼となり、

「では、次よろしくお願いしますね」とスタッフさんに念を押されていた、出勤前日。

比較的体の丈夫な私は、40度を超える熱を出しました。

インフルエンザに感染していました。

まちがいなく、次の日は出勤できません。その次の週も、怪しいものです。

「声がでなかろうが、一秒でも早く電話しなければ・・・」

わたしはお店に、とても重い気持ちで電話をかけました。

一週間前から電話の前で構え、予約を取ったお客様が数名。

本指名の方が4名、ご新規さまが1名。

本指名のなかには、とおく関西から来られる方もいらっしゃいます。

ご新規の方は、夏からずっと予約が取れず、ようやくこのたび初めて、予約できた方とのことでした。

そんななか、

わたしは、スタッフさんに「休みます」というだけ。

でも、スタッフさんは、自分のせいでもないことで、

こんなに期待だらけの人たちに、「キャンセル」のお願いをしなければいけないのです・・・

迷惑をかけるとき、かけた相手が男女どっちでもよろしいことでないし、差はないはずなのですが、

【大の男に、自分の責任で、代理で頭を下げさせる行為】

これが、苦痛で苦痛でたまりませんでした。

スタッフさんが「申し訳ございません」と謝り倒す姿が、現実で見ているわけでないのに、一生記憶に残りそうです。

なんだか、

スタッフさんに濡れ衣着せたみたいで

心苦しかったです。

自分が反対の立場だったら、

ぜったいにヤだな・・・

もし、予約が入っていても、気分で休んじゃうとか、

当欠常習のキャストさんがこの文章を読まれたら、

思い出してほしいです。

当欠常習でも売れるのは、たぐいまれなる「キャストとしての能力」がある場合のみ。

あなたの「休みます」の裏で動いている人数を想像してみましょう。

あなたは、その全員に、どんなフォローができますか?

「わたしが直接お客様に電話して、お詫びしますか?」

とききましたが「個人情報なので、店に任せて早く治してください」とだけ、言われました。

わたしは直接謝ることができないなら・・・と、しかたなく、写メ日記に、個別にお詫びのメッセージをアップしました。

本指名のお客様全てから、「また元気になったら、会いましょうね」

というお返事をいただきましたが、ご新規の方からは、メッセージがありませんでした。

(この方からは、もう2度と、指名を受けることはないんだろうな・・・・)

ご縁がありそうで、ないもの。

嫌な思い出だけをあたえて去る、イヤな私。

そんな風なことがあり、スタッフさんに盛大に迷惑をかけた自覚のある私は、

そのままフェードアウトしようかと考えることもありました。

でもそれでは、今まで一生懸命してきたことが、「礼を欠くこと」で締めくくられてしまう気がする。

こんな世界・業界だから、普段はあまり「礼儀」というものが薄れている。

だからこそ、せめて自分は「礼を欠く」ことをしたくない・・・

この感覚が、「礼を欠く」ことが恥だと感じられるうちに、

この業界から去ろう。

インフルエンザが治ったら、その次の出勤をラストにしよう。

完治した後、わたしはラストの出勤シフトを入れました。

「人気嬢のラスト枠は、人気絶頂の女優の、引退前最後の出演と同じ」

こう、スタッフさんは言いました。

「やめるのやめないかな~・・・ってのが、僕らの気持ちですよ」

スタッフさんは電話越しに笑いました。

写メ日記で「次の出勤がラスト」と書いたことで、予約が始まる日より前から、

「ほんとうにやめてしまうのか?」など、問い合わせの電話が鳴りやまなかったそうです。

そして、予約開始日となりました。

秒で、完売しました。

欠勤した日に予約を入れてくださったお客様の名前が、ズラリと並びました。

その中には、前回欠勤で、予約がダメになってしまった、例のご新規の方の名前もありました。

わたしは、基本、泣かない女です。

でも、ご新規の方の名前を見て、なぜか涙が止まりませんでした。

(続きます)

タイトルとURLをコピーしました